社会に出る前に準備して欲しいこと

水澤 幸司 2004年度 学部卒業

自動車工学研究室(小平研究室の前身 佐野研究室)所属

参戦イベント
2002年 Hondaエコマイレッジチャレンジもてぎ大会
2002年 Hondaエコマイレッジチャレンジ全国大会
2002年 Formula SAE Australasia (オーストラリア大会@メルボルン)
2003年 Formula SAE (アメリカ大会@デトロイト)
2003年 Hondaエコマイレッジチャレンジもてぎ大会
2003年 全日本学生フォーミュラ大会
2003年 Hondaエコマイレッジチャレンジ全国大会
2003年 Formula SAE Australasia(オーストラリア大会@アデレード)
2004年 Hondaエコマイレッジチャレンジもてぎ大会
2004年 Formula Student UK(イギリス大会@レスターシャー)
2004年 Hondaエコマイレッジチャレンジ全国大会

現役時代の担当
フォーミュラSAEプロジェクト チームリーダー / エンジン担当 / 渉外担当

チームリーダーで設計者、かつドライバーとして、2004年に日本のチームとしてイギリス大会に初出場
レースの本場で開発内容を審査するデザインイベントにおいて3位獲得

好きな言葉
好きな言葉は特にありませんが学生時代から今でも実践していることは、「頼まれごとは断らない」です。
もちろん仕事に関する話です。金は貸しません。
これは夢工房で教わったことだったと思いますが、依頼を積極的に引き受けることで自分のスキルや知見を向上させることができます。
また、自分に対して負荷を与えることで成長につながるという効果があります。
自分以外への効果として人間関係の潤滑油にもなるので、少人数で仕事をうまく回す場合もフォローし合う姿勢として大事なことだと思います。
会社だと時には良いように利用されてしまうこともありますが、社会人の貸し借りは仕事を進める上でとても大事です。
立場が変わると断る判断もたくさんありますが、学ぶ姿勢を大事にしたいと思います。

卒業後の就職先、専門分野、現在など
卒業後はケーヒンでモーターサイクルのスロットルボディ設計、転職してヤマハ発動機でクランクケース設計、スクーターのエンジン設計、今はエンジンテスト部門にいます。社会人になって約20年、ずっと内燃機関の開発に関係する仕事をしています。
あと労働組合の本社支部副支部長という仕事も兼任しています。
労働組合と聞くと猛烈仕事人間の方々からは疎まれる存在かもしれませんが、現場目線の困りごとや実情など全社の情報が入ってきて面白いところです。

就職先で生きたこと、TDU夢工房経験者ならではのこと
私には卒業してから20年近く経っても変わらない夢工房で得た財産があります。年を取って気が付いたことでもあります。
それは謙虚な姿勢とタフであるということです。
私自身は意識していないことですが、周りの人からそう評され自覚することがあります。
社会人として仕事をしていると難題に遭遇したり、膨大な仕事に忙殺されることがしばしばあります。ある程度の裁量が与えられる立場になると、人間関係や理不尽な課題に怒りを覚えることもあります。
自分が厳しい状況に置かれたとき、前に進もうという気持ちでいることが大事だと思います。謙虚であれば仲間が話を聞いてくれる、タフであれば、あと一歩のところを乗り切れる。社会人も学生も同じことです。

振り返れば、夢工房での経験は社会人生活そのものでした。夜通し設計や製作に明け暮れ、メンバーや先生と思いや考えをぶつけあう日々、精神的にも身体的にもキツイ状況でも、車を作り上げることができたこと、どうしようもない話で息を抜ける瞬間があったこと、そんな経験が今の私の原点だと思います。

もし学校の授業を受けるだけの学生だったら、今とは違うところにいたでしょう。今の私は、やりたい仕事ができ、充実した社会人生活を送っています。もちろん長くやっていると厳しい状況になることは多々ありますが、夢工房の経験があったからこそ乗り越えられていると感じます。

特に印象に残っている、現役当時の出来事
思い出は、きつかったことからくだらないことまでたくさんありますが、印象に残っているのは、我々のFormula SAE最初の車両、RF01のシェイクダウン走行をした時です。
小平先生が操る車両がパイロンコースをドリフトしながら旋回しているのを見て、自分たちの車両が動いたことの感動に加えて、当時の他校に比べて運動性能が見るからに高かったことが印象的でした。
Formula SAE開催初期の一般的な車両は直列4気筒エンジンを採用した重量300-500㎏クラスの車両に対して、RF01は軽量小型、運動性能を重視して単気筒エンジンを採用した車両は200kgをはるかに下回る重量で革新的でした。ハイエースにすっぽり入ってしまうほど小型だったのも印象的でした。
しかし、車が走れる状態になると、今度は私が担当したエンジンの開発がネックになりました。学生生活の後半は、この対応に時間を費やすことになりましたが、書くと長くなるので割愛します。何かを作り上げたときの感動というのは学生でも社会人でも同じですね。

オーストラリア大会とアメリカ大会に初出場した初号機RF01と

現役生にメッセージ
現場にいるエンジニアの経験から伝えたいことは二つです。

一つ目は人間力の話です。
人間力とは「社会を構成し運営するとともに、自立した一人の人間として力強く生きていくための総合的な力」という定義らしいです。細かいことはネットで検索すれば具体的な内容が出てくるので見てみてください。端的には、コミュニケーション能力、自己管理力、メンタルタフネス、自信、思考の柔軟性や余裕、覚悟や勇気、人や社会貢献への使命感、誠実さ、倫理観といったことが該当します。言葉の定義とか意味はそれほど重要ではなく、イメージできれば良い話です。
人間力の必要性ですが、前述のコミュニケーション能力とか倫理観とか社会人として必要なことは言うまでも無いことですよね。書いてあることほぼ全部必要です。
どの程度の人間力なら良いのか。これは難しいです。環境によっても要求が変わると思います。少なくとも夢工房を卒業したOB・OGたちの成果を見れば社会に出ても通用すると言えます。

難しいのは、人間力を向上させる具体的で明確な手段がないことです。
私の経験上、大学生活の4年間をどう過ごすかで残りの人生が変わると思います。
人間の性格は年を取った後に変化させるのはとても難しいことです。そして若い時にしか学べないものがあります。会社に入ってから技術を学ぶことは出来ますが、人間力を学ぶことは極めて難しく、自分にとって当たり前と思っている考え方や行動が間違っていると分かった時、会社でそれを修正することは困難です。しかも誰も教えてくれません。気が付いた時にはほとんど手遅れです。それが今、私が会社で見ている光景です。
このことは私の後輩たちに特に伝えたいことの一つです。即戦力となる知識やスキルも大事ですが、一番大事なのは仲間と一緒に仕事する人間力です。それさえしっかりしていれば、いろんなことがくっついてきます。極端な話、他は会社で学べばいいのです。
夢工房の活動でゴールを目指していろいろな人と会話し協力することを毎日積み上げていく、自分を見つめ直したりフィードバックをもらったりする、というのが人間力を向上させることにつながると思います。

二つ目は目標の話です。
有名企業や一流企業に入ることが目標になっていませんか?
大事なことは、企業に入ることではなく、何をしたいか、どうなりたいかを考えて、実現するために行動することだと思います。私は自分のやりたいことを追求し続ければチャンスを手繰り寄せることができると信じて大学生活を送っていました。今、20年間同じような仕事を続けられるのは、好きな仕事と良い仲間に巡り合えたこと、きつい状況でも成果を出して楽しめているからだと思います。

これから先、労働人口減少で学生の就職活動は有利になる反面、学歴の境目は無くなっていきます(企業は必要な人材を確保するために間口を広げるのです)そして成果主義の傾向がさらに強まっていきます。
つまり、高卒も大学院卒も関係なく、能力やモチベーションが高く、成果を出す人が評価される時代になります。
そうすると会社に入った後もかなり大変です。自分の目標やビジョンを描いて実現に向けて行動すること、必要に応じて修正する柔軟性がないと仕事を続けることがつらくなってしまうかもしれません。
夢工房の活動は、若い学生の皆さんにとっては厳しいことかもしれません。しかし、間違いなく大学の授業を受けるだけでは得られないものが夢工房にあります。

最後に、やりたいことが分からない人、夢を探している人は、一度、夢工房を訪れてみてください。
今、夢工房で頑張っている後輩の皆さん、大変かもしれませんが諦めずに続けてみてください。

だらだらと書きましたが、学生時代の私は深い考えなど無く、がむしゃらにやっていただけだったと思います。それでも十分です。社会人生活約20年の私が言えることは、夢工房で得られる経験は社会に出て必ず役に立つということです。
夢工房の魅力は、会社の仕事を実践(実戦?)的な形で疑似体験できること、私たちの教育に心血を注いでくれる先生方がいること、活動を支援してくださるスポンサーの皆様がいることです。
この環境を生かすかどうかは参加する皆さん次第。自分たちの充実した人生や成し遂げたいことの為に何をすべきか考えてみて行動に移すだけ。及ばずながら困ったことがあればOBとして相談にのります。皆さん頑張ってください。

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